相続法改正の概要

平成30年7月、「民法及び家事事件手続き法の一部を改正する法律」及び「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。

日本では、昭和55年に配偶者の法定相続分の引き上げや寄与分制度の新設等の改正がなされて以降、相続法について大きな見直しはされていませんでした。

しかしその間、我が国の平均寿命は延び、少子高齢化が急速に進行する中で、高齢者の再婚増加等、相続を取り巻く環境は大きな変化をしています。

また、平成25年9月には、最高裁判所大法廷において、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた民法の規定が憲法14条の法の下の平等に違反するとの判断が下されました。これを受け、この規定を削除して嫡出子と嫡出でない子の相続分を同じにすることを内容とする「民法の一部を改正する法律」が成立しています。

 

このような社会経済情勢の変化に対応すべく、この度の相続法の改正は行われることになりました。

改正のポイントは以下の大きく分けて3つの点にあります。

 

1.配偶者保護を目的とする新たな制度の設立

  Ex 配偶者居住権の創設等

2.遺言の利用を促進するための方策

  Ex 自筆証書遺言の方式緩和等

3.相続人を含む利害関係人の実質的公平を図るための見直し

  Ex 相続人以外の者が被相続人の療養看護等の貢献を行った場合に、その者に相続人に対する金銭請求を認める制度

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配偶者保護を目的とする新たな制度

今回の法改正で配偶者の保護を目的とするものは、主に①配偶者居住権制度と②持ち戻し免除の意思表示推定規定があります。

 

①     配偶者居住権(新1028条以下、1037条以下)

 配偶者居住権とは、当該居住建物を使用収益する権限のことをいいます。

 近年高齢化が進み、平均寿命が延びたことによって、被相続人の死後もその配偶者が長きに亘り生活を継続することも少なくありません。

 そうなると、配偶者としては、住み慣れた住居に住む権利を得つつ、ある程度の生活資金も得たいと考えるのが普通です。

 

 これまでにおいても、遺産分割協議において配偶者が居住用建物を取得することで居住権の確保は出来ましたが、居住用建物の評価額が高いと、配偶者はそれ以外の現金や預貯金を十分得ることが出来ず、住まいはあるもののお金がなく、生活に困ってしまう事態も生じかねませんでした。

 

 そこで、配偶者居住権の制度が設けられました。

 配偶者居住権の制度においては、配偶者のために居住建物の使用収益のみが認められ、処分権限のない権利を創設することによって、遺産分割の際に配偶者が居住用建物の所有権を取得するよりも低廉な価額で居住権を確保することが出来るようになります。結果、遺産分割において得られる預貯金等の額も多くなります。

 

 なお、この配偶者居住権は、遺産分割協議のほか遺言によっても取得させることができます。

 

 高齢化が進み、それぞれ子がいる高齢者同士の再婚が増えています。 

 このようなケースで問題になるのが、新たな配偶者と子との相続ですが、この配偶者居住権の制度により、自宅不動産を有する被相続人は、遺言により配偶者には居住権を取得させてその居住を確保しつつ、子には不動産の所有権を与えることが可能になります。

 

②  持戻しの免除の意思表示推定規定(新903条4項)

 その他、配偶者の保護を目的とする新たな制度として、婚姻期間が20年以上の夫婦間でされた居住用不動産の贈与等について、いわゆる持戻し免除の意思表示を推定する規定が設けられました。

 

 現行法では、生前相続人に対し贈与があった場合や遺贈がある場合、被相続人から遺産の先渡しを受けたものとして遺産分割における取り分を計算することになっています。

 

 この場合、贈与等の対象になった財産の価額を遺産の価格に持戻した上で、遺産の総額に相続人の相続割合を乗じ、生前贈与等を受けた相続人は、その贈与の対象となった財産の価額を差し引いて遺産分割における自己の取得分を計算することになります。

 ただし、被相続人が、ある特定の贈与等について、その価額を遺産の額に含めないという意思を表示していた場合、このような計算は不要とされています。(持戻しの免除の意思表示

 

 この点、婚姻期間が20年を超えるような長く連れ添った夫婦であれば、夫婦の一方が他方に対し行った居住用不動産の贈与等は、通常相手方の長年の貢献に報いるとともに、老後の生活補償を厚くする趣旨で行われると考えられます。被相続人としては、遺産分割における配偶者の取得額を算定するにあたり、その当該不動産の価額を差し引いて遺産分割をするという意図を有していない場合が多いと言えます。

 

 そこで、改正法においては、婚姻期間が20年を超える夫婦の一方が他方に対し居住用不動産の贈与等を行った場合、持戻し免除の意思表示があったものと推定する旨の規定が置かれることになりました。

 これにより、残された配偶者の生活に配慮することが可能になりました。

 

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遺言の利用を推進するための方策

今回の法改正において、遺言の利用を促進するための方策として、①自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度、②自筆証書遺言の方式緩和、③遺言執行者の権限の明確化等があります。

 

①自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度(遺言書保管法)

自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度というのは、法務局が自筆証書遺言書を預かってくれる制度であり、この制度は令和2年7月から開始されました。

 

 この同制度を利用すれば,法務局において、遺言書の原本は遺言者死亡後50年間、その画像データは遺言者死亡後150年間、保存・保管されることになるので、遺言書の紛失・亡失のおそれがないほか、相続人等の利害関係者による遺言書の偽造・変造・隠匿・毀棄の危険を防止することはできます。

これまで自筆証書遺言は、紛失の恐れや、偽造、変造、隠匿の危険があることがデメリットとして挙げられていましたので、この点が改善されることになりました。

 

その他、この保管制度を利用すれば裁判所での検認手続きも不要とされています。

 

※検認手続き

相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

 

自筆証書遺言保管制度に関してはこちらを参考にしてください。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

 

 ②自筆証書遺言の方式緩和(新968条2項など)

 これまで自筆証書遺言は財産目録も含め全文自書しなければならないとされており、このような厳格な方法が遺言者の負担になり、自筆証書遺言の利用を妨げていると言われていました。

 そこでこの点を改善すべく、自筆証書に遺産や遺贈の対象となる財産の目録を添付する場合には、その目録については自書を要しないこととなりました。これにより、パソコンで作成した目録や通帳のコピー等を添付することができることになります。

 

 ただし、偽造、変造等の防止の観点から、自筆証書に自書に依らない財産目録を添付する場合には、毎葉に署名押印をしなければならないことになっています。

 

遺言執行者の権限明確化(新1012条1項、1007条2項など)

 相続法改正前は、遺言執行者の権利義務等に関する一般的・抽象的な規定はあったものの、遺言執行者が誰の利益のために職務を遂行するべきかといった点や、遺言執行者が具体的にどのような権限を有するかといった点について、明確な規定があったわけではなく、判例等によって明確化が図られていました。

 

 そこで、改正法では、遺言を円滑に執行し、相続を巡る争いを出来る限り防止するため、遺言執行者の具体的権限の内容等について、新たに規定を設けることになりました。

 

※遺言執行者

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことを言います。

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相続人を含む利害関係人の実質的公平を図る為の
見直し

 利害関係人の実質的公平を図るための方策としては、遺産分割前の預貯金の払戻制度、②特別の寄与の制度相続開始後遺産分割終了前に相続人の一人が遺産を処分した場合に関する規律、等があります。

遺産分割前の預貯金の払戻し制度(新909条の2)

 改正前は、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済など、お金が必要になった場合でも、相続人は、遺産分割が終了するまでは被相続人の預貯金の払戻しができないという問題がありました。そのため、相続人の一人が被相続人の葬儀費用負担せざるを得なくなるという場面もありました。

 改正法では、このような相続人の資金需要に対応することができるよう、遺産分割前にも預貯金債権のうち一定額については、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関で払戻しができるようにしました。

 

  ②特別の寄与の制度(新1050条)

  改正前は、相続人ではない親族(例えば子の配偶者など)が被相続人の介護や看病をしても遺産の分配に

 あずかることはできず、不公平であるとの指摘がされていました。

   改正法では、このような不公平を解消するために、相続人ではない親族も、無償で被相続人の介護や看病

  に貢献し、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対し、金銭の請

  求をすることができるようにしました。

 

  ③相続開始後遺産分割終了前に相続人の一人が遺産を処分した場合に関する規律(新906条の21項)

   改正前は、遺産分割終了前に相続人の一人が遺産を処分してしまった場合に、遺産分割においてどのよう

  な処理をすべきか明文の規定はなく、また、明確にこれに言及した判例もありませんでした。そのため実務

  では、処分された遺産を除いた残りの遺産を基準に遺産分割を行い、処分された遺産は特段考慮しないとい

  う扱いをしていました。そのため相続人間で遺産の取得額について不公平が生じる結果となっていました。

 

 

  改正法では、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、共同相続人が全員同意すると(処分をし

 た相続人の同意は不要)、処分された財産も遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるよ

 うになりました。これにより、相続人間の公平が図られるようになりました。

 

 

  

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その他の改正

①遺留分制度の見直し(新法10461項 新法10443項)

改正前は、遺留分権利者が遺留分減殺請求権の行使をすると、遺贈や贈与の目的財産について遺留分権利者と遺贈や贈与を受けた者と共有状態が生じ、遺留分の限度で遺贈や贈与の効力が否定され、事業の承継等の妨げになることが指摘されていました。

改正法では、遺留分に基づく請求権を金銭債権化し、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになりました。

これにより、遺留分の行使により共有関係が当然に生ずるという事態を回避することができるようになりました。

 

また、相続人に対する贈与は、相続開始前10年間に行われた婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与の価額に限り、遺留分を算定するための財産の価値に参入することになりました。

 

これにより、遺贈や特定財産承継遺言によって目的財産を受遺者や相続人に承継させたいとの遺言者の意思は、改正前より実現されやすくなりました。

 

②相続の効力等に関する見直し(新899条の2第1項)

改正前は、特定財産承継遺言相続分の指定がなされた場合のように、遺言による権利変

動のうち相続を原因とするものについて、判例は、登記等の対抗要件を備えなくてもその権利を第三者に対抗することができるとしていました。

 

しかしこれだと遺言の有無やその内容を知らない相続債権者や被相続人の債権者等第三

者の利益が害されることが指摘されていました。

 

 

改正法では、相続により、法定相続分を超える権利を承継するときは、その超える部分に

ついては、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することは出来ないことになりました。

 

 

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